2017年9月3日

茨城経済学――トップバリュー効果とノンブランド戦略

 地域の魅力度とブランド総合研究所に登録している西日本の数百人から偏見される何らかの生活要件、は、一言でいうとおもに観光地としての魅力度なわけだが、この観光地としての客観認知度を日本の47県のうちの平均値に近づけるという思考自体が、横並び若しくは中庸志向だというしかないだろう。大井川氏の、経営学を援用した論理、すなわち差別化が市場原理において青い海(競争相手のいない新興市場)を泳ぐのに有効だという革新理論的発想からいえば、すでに「魅力が日本で最もない」という認知biasを、(ブランド総合研究所所長の東京都民)田中章雄の資本だの、東京の非科学的で悪質な報道機関だのの俗受けを狙う商業的悪意を利用して、かなり巧妙に宣伝できているのは明らかではないだろうか。この観点は既に青木智也氏がイバラッパーの活動で、魅力度最下位はオイシイという表現(吉本興業的ミームでいう「巧く喜劇的に目立てる」という意味)で提出済みだった。
 さらに青木氏はかれのサイト『茨城王』「茨城県が裏魅力度調査2010で第1位を獲得」 のページで、次の様に述べている。

 これ、ほんとにこんな値段するの?いくら有名だからって高すぎでしょ・・・って正直思ったことはありませんか?


 ブランド力が高い商品ほど、はっきりいって値段も高いですね。●海道の有名なお菓子はみんな高いでしょ。←水海道じゃないですよ(笑)。
払った対価に比例して満足度は高まるものですから」なんて言われちゃうと、なるほど確かにそうかもなあ・・・なんてだまされねえって(笑)。それより、もっと「安くていいもの」のほうが普通はいいでしょ。

この指標は主に農産物や特産品を対象としていますが、質が高いにも関わらず、あえてブランド価値を高めずに、なるべく安い価格で提供しようとしている生産者や商品をもっと高く評価すべきであるという主催者側の意図が見て取れますね。


 茨城県はこのノンブラン度でも第1位を獲得しています。
評価の高い産品を挙げていけばキリがありませんが、コシヒカリ、メロン、栗、水菜などその品質のわりに価格が安いものが多いです。

以前農業関係の仕事に就かれていた方がおっしゃった一言を私は忘れることができません。
その一言とは「かしこい消費者は茨城産のコメを食う」。
なるほど!と思いました。
グルメ志向、ブランド志向の方だったら●沼産などに手を出しそうなものですが、賢い方は同レベルの品質であるにもかかわらず価格の安い茨城産を選ぶということなんですね。高けりゃいいってものではなくて、いいものを安く買うのがかしこい消費者です。

メロンだって夕張が有名ですが、たくさん作って安く提供しているのは茨城産ですし、なんて有名な小布施の栗菓子にどんだけ茨城産が使われていると思ってるんですか。
水菜にいたっては、京都産の半額ですからね。
そりぁ日本一の産地になっちゃいますよ。
水菜は元々京野菜で関東ではあまり食べられていませんでしたが、これだけ水菜が普及したのはきっと茨城産の水菜があったからといってもいいすぎではないでしょう。


 それと、茨城には有名な割には値段の高くないブランドというのもありまして、それは水戸納豆ですね。納豆って栄養価が高い割には値段が安く、非常にコストパフォーマンスの高い食品だと思います。

 ここにみられるのは日本や世界の賢い消費者を馬鹿にしている、高く余分をとった高付加価値のわりに質の低い、東京や京都の様な見栄っ張り「ブランド志向」の逆の発想で、コストパフォーマンスを最重視した高品質の割に無名であるから値段が安い「ノンブランド志向」が茨城県の既存の好条件を最も生かしやすいのだ、という観点である。このブログの中でも何度か似た意見を述べてきた。茨城ブランドとは現時点でノンブランドと同質の意味を持っている。「有名じゃないから大したことがないのだろう」という日本人の偏見をゲイン効果に逆利用して、国内市場では有利に高品質・低価格な製品サービスを提供できる、というわけだ。橋本県政が工場誘致力を日本でトップにしたのも、農業力も2位にまで成長させたのも、この消費者にとって最もありがたいトップバリュー効果を活かしていたのだ。しかも、茨城産の商材は国外では日本ブランドに他ならず、国内で費用対効果面で競争力をもった時点の茨城製品・茨城サービスは、国外ではブランドマージンを得られるのだからさらに高値で売れる。
 茨城県の特質を生かして高付加価値を生み出す要因は、ブランド価値を最小化する事の方にある。目立つ宣伝をしたり、押し付けがましいブランド名をつけて高級感を演出したりしてはいけない。素っ気ない、どう見ても過剰サービス精神のない、あたかも売る気がないように見える。しかし裏返せば消費者には全然ありがたくない宣伝費や無駄に他ならない過剰包装的・偽装的な価値の上乗せに過ぎない余分を極限まで切り詰めてあり、お徳感、実のコスパにおいて圧倒的に世界一の水準にある、という商品価値の実感を奨励する方向に進むのが、逆差別化という茨城経済のノンブランド(無名)戦略に違いない。既に無印良品とかプライベートブランドとかに似た傾向の戦略はあったが、県単位で自覚的にこの経済戦略をとろうとしたところはないのだろう。
 他方、マージンを取れないなら製品サービスのコモディティ(日用品、似たり寄ったり)化によって(過当競争の血の海の様に)赤い海になりやすいという批判が考えられるが、競争力を持って市場で勝利できる限り、隙間市場においても同様の、魅力を削いだ実の効用を求める製品サービスの入り込む余地はあるかもしれない。たとえばオーディオスピーカー分野で実を求める人に有名なオラソニックや、海外ではおそらく日本一のクラフトビールである常陸野ネストの木内酒造、皇室献上品でもあるカガミクリスタル等はこのような例なのかもしれない。要は市場競争力を志向しながらも、品質/価格において勝利する事を目指し、虚栄より実質をとる賢い消費者のみにターゲティングする。裏返せば、ブランド志向で見栄を張り、低品質・高価格な製品サービスを購買したがる愚かな消費者を標的から大胆にはずし、過剰な高値付けをもたらす非消費者目線の余分を極限まで切り詰めた良心価格を目指す。京都・東京・北海道・沖縄の逆を張ってブランド依存またはブランド志向を脱却する事が茨城的なのだ。
 もしこの種の戦略が現実に成功度を高めていった場合、必然に、市場シェアを独占する分野が複数生まれるはずだ。結果的に、世界市場における持続競争力を茨城が確保していく事ができるだろう。この戦略をとる場合、いかに県内の企業・労働環境を低費用化できるか、しかも、県内の何らかの職人的な起業風土、社内外教育(ON-JT・OFF-JT)に有利な条件付けによって市場と比較して高品質な製品サービスを生み出して当たり前だ、という意識をどう作るかが重要だ。いいかえると、品質/価格の高い商品において潜在価値をうみだす両輪として、低費用化と高品質化の誘引が必要になる。前者については公害を主とした外部不経済の内部化を除いて、企業活動に世界一有利な県内誘致環境を生み出す事が重要で、これは法整備を含む税制改革によって県庁に十分なしうる。また労働者に関しては公務員が高い税を貪らないという県内公務員の給与削減によって模範を垂れる効果と、公務のIT化・高効率・合理化によって、武士道的な、高利益を得る事のない低廉な仕事の方が立派で、代わりに名誉を付与されるのだという貴族精神の啓蒙が重要だ。後者、高品質化については教育風土によると思われるが、恐らく高品質の飽くなき追求と言う意味での芸術家・職人気質の啓蒙が役に立つのだろう。求道的な職人は無限に高品質を志向するものだし、それはいかにも売らんかなというデフレ経済下の消費者にとってはうんざりする態度、もしくはより高い差額を得ようという商人気質の逆を張る為、ノンブランド戦略との調和がし易い。前衛芸術家(後衛の作家はそうではない)はまだ評価されざる領域へ決死で常に挑戦していくという意味では革新の原点だし、この種の人々を集める事は精神面でのイノベーティブな環境を生み出しうる。