2017年10月31日

負の所得税に関する考察

 負の所得税は部分的に所得制限ありの基礎収入と同じ働きをもつ。

勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit:EITC)は、「マイナスの所得税」と言われる税制の1つ。定職に就いているが、ある一定額以下の収入しかない世帯は、確定申告の際、税金を支払うのではなく、政府からお金を支給される。この制度の目的は勤労意欲を高め、低所得層の家庭を金銭的にサポートし、理想的には貧困から抜け出す術を与えることだ。
https://www.businessinsider.jp/post-1106

 所得制限ありの基礎収入は一定額以下の収入しかない世帯の中に、生活保護の捕捉率を100%にする事を含めている上に、基準額以上の所得を持つ人々に対して減税が可能となる。つまり勤労所得税額控除は、言い方が違うだけで負の所得税と所得制限ありの基礎収入とほぼ同じ内容を示していて、その控除対象に捕捉率を100%にした生活保護者を含めるかどうかのみが議論対象だということだ。労働主義者、勤労主義者はねたみの感情から生活保護者を目の敵にする傾向がある。が経営者側からみれば消費力の高い世帯の方が好都合なだけであり、賃下げをしても労働争議をしない社畜化が株主資本主義の観点からは望ましいだけである。つまり経営目線ではBI世帯が消費することは望ましく、勤労者が賃上げ要求しなければさらに望ましい。つまり自民党のような寡頭的資本家政党が労組を弾圧している状態で、BIの財源を消費税などの多少あれ逆進的性質をもつ税で補ってくれれば経営的にはプラスとなる。つまり基礎収入制を妨害する最大の原因は労働階級の生活保護階級へのねたみなのだ。
 上述の勤労所得税額控除を述べているのはビルゲイツで、勤労意欲をもちだして人件費を削る為にBIを否定しているわけだが、総じて富裕層側からみてBIの財源が逆進的に確保されていれば損害はない。しかし累進度が社会の幸福度である事も確かであるから、富裕層の利己を功利的には重視する価値はないことになる。
 結局、勤労所得税控除、所得制限ありの基礎収入、どちらの表現でも、日米の社会的課題が相対貧困率の低下、つまり所得調整である事が明らかであり、そのための手段としてr>gの法則がある限り既存の労組による最低賃金の強制的引き上げによっては永久に目的である調和が十分達成されないことからも、文化的生活水準以下の基準額しか得られない人々に生活保障を累進課税の元で行う事が必要である。つまり第一に、国民あるいは県民全員への勤労主義、労働主義という生産性信仰を否定しなければいけない。パレートの法則からいっても、一人当たり国民・県民所得を引き上げるには全体の2割の商才に恵まれた人々が圧倒的な成果をあげるのに適した環境を残せば十分なのである。戦後の自由主義者らは賃上げによって高度成長期が再来する事を望んでいるが、仮にそれが成功しても再び平成期のような踊り場に出るだけであり、その中途でも幸福度は決して上昇しない。なぜなら相対貧困率をあげたままにするという自由主義者の自己責任論、つまり弱肉強食的社会ダーウィニズムを政治家がもっている限り、その社会で暮らすことは物質的絶対水準に関わらずは必ず相対不幸だからだ。
 ここまでくると、物質的絶対水準派と、福祉的相対幸福派という2つの考え方が先進国の中で対立している、という事が浮き彫りになる。ビルゲイツはビル自身が有利になる前者を全力で推進する。もしビルが生まれつき商才に恐ろしく欠けた人物で、代わりに共感知能の高い社民主義者であったなら、後者を当然と考えたろう。
 大井川知事は日本一の幸福県を目指すと銘打っているが、福井県のGDPや県民所得をみれば物質絶対水準はわが県とほぼ変わらないか少し低いくらいだろう。福井の幸福度とされる指標の原因は、日本海側の雪国の傾向としての高学力と関西の商人気質が合体し、人口当たりの中小企業数が最大である事に関係していると思われる。それにもかかわらず、県民所得や一人当たりのサラリーマン収入では茨城の方が福井より指標が高い(一人当たり総生産では福井の方が高い)。失業率が高いと幸福度を低く見積もる傾向があるので、これらをあわせてみると、福井は労働・勤労主義的な社会指標の故に高幸福度と指標づけられている事がわかる。生活保護の受給比率は両方低いが、茨城が35位なのに比べ福井が46位と極端に低い。ここまでで新自由主義的な規制緩和政策によって一部のIT長者を生み出し彼らの物質的絶対水準を茨城県があげても、IT企業の雇用者数は少ない傾向もあり、福井のような低失業率をそのままでは実現できない事がわかる。
 即ち低失業率を便宜的に回避するのに勤労所得税控除、所得制限ありの基礎収入が使えるとして、同時に、常に市場に買い手市場となる負圧を与えておくような誘因付けが幸福度向上に役立つ、ということになりそうだ。橋本知事がそうだったよう、高付加価値の分野招致を前提に仕事場を量産しながら、負の所得税となるおちこぼれの高捕捉率によって護送船団的に全体の高福祉を実現していく。これが茨城の幸福度を上げる方法だ。