2021年8月6日

要因Yについて

概要

ファクターX(以下、訳して要因X)*1という言い方で、山中伸弥氏*2が「日本にだけ存在する新型コロナウィルス感染・死亡率を下げた要因」と定義した概念について、自分は、要因Xが存在しないこと(或いは結果への寄与度がほかの要素より比較的微弱なので巨視的に無視できること)、かつ、真の要因Xとは山中氏個人の自明の前提に置いていた、欧米と日本のみの比較、との囚われだったとみいだした。以下それらについて詳説する。
 単に、現実にあったのは、対人濃厚接触の積極性(乱雑さの頻度)に関する人口あたりコロナ感染・死亡率の分布だという事である。そして自分はこの要因を新たに要因Yと定義した。
 以上からコロナ禍への根治策として、自分は社会距離戦略の継続維持が重要だと提言する。

1.要因Xと要因Y

 以下のグラフは、札幌医科大による「人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【世界・国別】」のサイト*3から引用する。各図はクリックで拡大する。

 まず次の各大陸の比較グラフによると、「西洋とアメリカ大陸(以下、欧米)」の「人口100万人あたりの感染者数の少なさの成績(以下成績)」は最も悪い方に属していて、他の各大陸を大きく引き離している。 


 以下はこのグラフに日本・世界平均を加えたもの。これでみると、世界平均や日本より悪い成績が出ているのが欧米両大陸である。

 以下は「中国を除く東亜諸国・諸地域(ここでは『東亜諸国・諸地域』で香港、韓国、台湾、日本の事を指す)」と「オセアニア3国(オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア)」を配置したグラフである。
 日本はこれら7国では最も悪い成績が出ている。この時点で、日本単独に要因Xがあるとは言えない事になる。なぜなら東亜諸国・諸地域とオセアニア3国は日本より成績が良いからだ。いいかえれば、もし要因Xがあるなら少なくとも東亜諸国・諸地域にも共通してある要因でなければならない。但し、世界平均と比べてみれば、それはアフリカ大陸にも存在する要因であることになる。
 以下、山中氏による概念との区別の為に、「東亜諸国・諸地域とオセアニア3国、かつアフリカ大陸にも共通して存在する、成績をよくしている要因」を要因Y(ファクターY)と置き換えることにする。

 以下は「東アジア・東南アジア諸国諸地域(以下、東亜諸国)」と「オセアニア3国」を配置した線・棒グラフである。
 ここでわかるのは、東亜諸国のうち、日本の成績は中ほどに属しており、日本より成績の悪い東亜諸国もあればそうでない東亜諸国もある。よって、要因X(日本にだけ存在すると考えられている成績優秀さ)は存在しないか、もし存在したとしても成績に与える他の要素に打ち消されるほどの効果しかないので、事実上、無視できる
 もし真実にあるならば、それは要因Y(欧米と比較したときの東亜諸国、オセアニア、アフリカ大陸の各人平均に存在する成績優秀さ)である。
 

 

 以上のデータから論証されたのは

「日本にだけ存在すると考えられている成績優秀さ」としての要因Xは存在しないか無視できる(山中氏の仮説が誤っている)
存在しうるのは「欧米と比較したときの東亜諸国、オセアニア、アフリカ大陸の各人平均に存在する成績優秀さ」としての要因Yである

 以下の人口100万人あたり死者数のグラフから、上記2点(要因Xの存在しなさ、要因Yの実在可能性)は、死亡率の成績についても同じ事がいえる。

2.証拠に基づくコロナ禍の原因療法

 次に、ではこの要因Yの正体は何かだが、自分が提出できる仮説として、これらの要因を帯びていると考えられている国々は、ならしてみて、南半球または熱帯・亜熱帯・温帯圏の国々という事だ。いいかえれば、暑い国々で成績がよい。
 端的にいえば、新型コロナウィルス感染経路が対人濃厚接触であるのは一般的に確かなので、暑い国々では対人濃厚接触を消極的にし易い要因がある事になる。

 この世でコロナ禍(新型コロナウィルスの蔓延、感染拡大)に対抗できる唯一の原因療法(根治策)は、したがって、対人濃厚接触の乱雑さの頻度を下げる事といえる。
 要因Yの正体が対人濃厚接触を進んで避けるのに十分なほど暑い事であれば、日本など総じて温帯に属していたり、欧米を主とした北半球の国々など寒帯でも成績をよくするには、対人濃厚接触の乱雑さの頻度を下げる工夫を社会距離戦略としてとり続ける事が十分といえるだろう。

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参考

*1 アーカイブ
*2 京都大学iPS細胞研究所の代表。アーカイブ

*3 https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/index.html

『人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【世界・国別】』
札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門
    Masashi Idogawa, Shoichiro Tange, Hiroshi Nakase, and Takashi Tokino.
    Interactive Web-based Graphs of Coronavirus Disease 2019 Cases and Deaths per Population by Country.
    Clinical Infectious Diseases 2020; 71:902-903.
    https://dx.doi.org/10.1093/cid/ciaa500
Data Source: Johns Hopkins University Coronavirus Resource Center, COVID-19 dashboard in ECDC, Coronavirus Source Data in Our World in Data, WHO situation reports, Estimates 2020 in UN World Population Prospects 2019